福岡地方裁判所 昭和57年(行ウ)21号 判決 1983年12月22日
原告 城戸昌三
被告 建設大臣
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、昭和五七年一〇月二六日、原告に対してした再審査請求を棄却する旨の裁決を取消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、福岡市建築主事が昭和五六年五月三〇日付で株式会社大和団地に対してした建築確認処分について、昭和五六年九月一六日、福岡市建築審査会に対して審査請求(以下「本件審査請求」という。)をしたところ、右審査会は、同年一〇月二六日、右審査請求を棄却するとの裁決(以下「原裁決」という。)をした。
原告は、同年一一月二六日、被告に対し再審査請求(以下「本件再審査請求」という。)をしたところ、被告は、昭和五七年一〇月二六日、原告の再審査請求を棄却するとの裁決(以下「本件裁決」という。)をした。
2 しかしながら、次に述べる理由により本件裁決は違法である。
(一) 建築基準法(以下「法」という。)七九条二項は、建築審査会委員の人選に関し、「委員は、法律、経済、建築、都市計画、公衆衛生又は行政に関しすぐれた経験と知識を有し、公共の福祉に関し公正な判断をすることができる者のうちから、市町村長又は都道府県知事が任命する。」と規定している。
(二) ところで、原裁決をした福岡市建築審査会の委員七名の選任分野は、建築三名、都市計画一名、公衆衛生一名、行政二名となつており、かつ、委員のうち一名は建築士会福岡市支部長である。
(三) このように、福岡市建築審査会の構成は、委員の選任分野が、あまりにも行政側に偏し、建築業界の利益代表が委員であるなど不公正であり、法七九条二項の規定に反する違法なものである。
したがつて、右建築審査会がした原裁決には、その裁決主体に関する違法があり、これを看過してした被告の本件裁決は違法である。
3 よつて、原告は、本件裁決の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は、認める。
2 請求原因2の冒頭の主張は争う。同2の(一)、(二)の事実は認め、(三)の主張は争う。
三 被告の主張
行政事件訴訟法一〇条二項は、いわゆる原処分主義を採用しており、原処分についての審査請求を棄却した裁決に対して原処分の違法を理由として、その取消しを求めることはできないものとしている。
原告の主張する違法事由は、原処分である福岡市建築審査会のした原裁決に関するものであり、本件裁決の固有の違法事由ではないから、原告の本訴請求は理由がないというべきである。
四 被告の主張に対する原告の反論
審査請求を棄却した裁決がなされ、次いで、再審査請求を棄却する裁決がなされた場合、前者は行政事件訴訟法一〇条二項にいう「処分」にはあたらないから、再審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えにおいては、審査請求を棄却する裁決の違法を主張することも許されるというべきである。
理由
一 まず、請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、請求原因2について判断する。
原告が主張する本件裁決の違法理由は、福岡市建築審査会がした審査請求を棄却する旨の原裁決の違法であつて、本件裁決に固有の違法を主張するものではない。
ところで、行政事件訴訟法一〇条二項は、処分取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない旨規定しているところ、これは、両訴における裁判所の判断の牴触を避けようとする等の趣旨であると解される。
したがつて、審査請求を棄却する裁決の取消しの訴えと再審査請求を棄却する裁決の取消しの訴えとを提起できる場合においても、両訴における裁判所の判断の牴触を避ける必要がある点で前段の場合と異なるところはないから、再審査請求を棄却する裁決の取消しの訴えにおいて、審査請求を棄却する裁決の違法を理由として取消しを求めることはできないと解するのが相当である。これと異なる原告の主張は採用しない。
そうすると、原告は、本件裁決の取消しの訴えを提起できるだけでなく、福岡市建築審査会がした裁決の取消しの訴えをも提起できるのであるから、原裁決に存する違法を本件裁決の違法理由として主張することはできないものであり、原告が主張する本件裁決の違法理由は、主張自体失当である。
三 よつて、原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 菅原晴郎 有吉一郎 井口実)